建築甲子園表彰式
第1回 高校生の建築甲子園 優勝・準優勝
優勝
エントリーNo.18 滋賀県立安曇川高等学校「わたしのまちの油田」
準優勝
エントリーNo.13 静岡県立科学技術高等学校「久能山のたぬき(いえやす)さん~ぬくといなあ~」
審査総評 建築甲子園審査委員長/片山和俊
第1回高校生の建築甲子園に全国から寄せられた34作品、いずれも力作で関心の高さが伺われた。はじめての試みで審査も試行錯誤が続いたが、予想していたより順調に進めることができた。
審査方法は野球の甲子園大会に因みトーナメント方式を採用したが、早い段階の対戦で良い作品が敗退してしまうことを回避し、審査が進む程に見えてくる作品を見直すために、トーナメント方式にシードと敗者復活を合わせた選定方式とした。審査は、テーマの理解度(取組みの姿勢)、提案度、具体性、独創性、表現力(プレゼンテーション)を目安に、はじめに審査委員各自が全作品を採点し、その後上記の方法に従い討議しつつ勝敗を決め審査を進めた。
全作品を最初に見た時の印象は、予想していたより表現が整っているが、少し固いなと思われた。けれども審査を進め一つ一つ作品を見ていく間に、それぞれの地域の暮らしへの思いや表現の工夫が見え、心が動き、判断する気持ちと戦う球児を応援する親のような心境とが交差した。巷では地域性やコミュニテイがなくなり、人間関係が個に分解されとあるが、作品の中には人のつながり、地域の暮らしや豊かな自然が感じられ嬉しかった。東京に育った私からは、愛する地域が目の前にある君たちがうらやましく思われた。一方で、今回出品がなかった東京など大都市で暮らす高校生諸君には地域がどう映っているのだろうか。私たちを含めて考えなければならない問題があるような気がしてならない。
審査しながら、時折自分の高校時代が浮かんでは消えた。甲子園を夢見て野球漬けの日々であった自分と較べると、はるかに君たちの方が地域のくらしへの思いや理解が、建築の構成や表現が進んでいる。CADや写真などの表現ツールが、比較にならない程便利に使えるのも一因だが、ここで負け惜しみを言うのは止めておこう。それよりも社会的背景が明らかに違っていると言う方が的確であるだろう。私の高校時代は日本がまだ貧しく、それを超えることが社会の大きな課題で、個人の目標と重なっていた。まだ各地に地域が十分にあり、問題になり出したのは高度経済成長のひづみが見えてから後のことである。けれども今、君たちは地域を支えていく次の貴重な担い手として期待されている。その重さが君たちを動かし、創作の背景となって心を打つ提案を生み出す力になっているに違いない。
作品全体を見ながら気になったのは、自分の提案する建物が中心で敷地全体や接する環境との応答と表現が足りないことだ。広域的な地域への眼差しや発想から、一足飛びに建物に集中してしまっている。敷地の廻り、隣家や道路も建築の一部である。そしてもう一つ。平面図の塗り絵のような色分けも気になるところだ。表現として楽しそうだが、かえって全体の空間的特徴や空間の連続的な展開を伝わりにくくしている場合があるように思われた。実体としての建築に色分けはないのだから、必要ならば別に表現したらどうだろうか。
思いついては考え直し、図面を描いて描き直しまとめた君たちの提案による戦い、第1回建築甲子園はここで終わりを迎えた。見事に勝ち進んだ作品もあれば、無念にも涙をのんだ作品もあったに違いない。けれども提案そのものが終わったわけではない。君たちの中に、地域の中に残っている筈だし、むしろここからはじめることが大事だと思う。今回の応募を一つのステップにして、次なる歩みにつなげていって欲しい。それが審査をしたわれわれの願いである。
2010年 第1回 高校生の建築甲子園 優勝
エントリーNo.18 滋賀県立安曇川高等学校 「わたしのまちの油田」
監督/男性 選手/1年女子1名
はじめは単純に民家を利用した提案かと思われたが、棟廻りや模型をみると新しく建てられた計画であり、家の内外隅々にまで水が引込まれ利用されている。この作品を通して琵琶湖西岸に位置する油田地域に、比良山系からの湧き水(生水)による川端と呼ばれる生活用水システムがあることをはじめて知ったが、それを巧みに取り入れた住まいの提案である。加えて建築には、地域で捨てられてしまう民家の再利用と、人間の手が入らなくなり減少する葦原の再生を意図して、新しい構成材として古材と葦が建築の各部分に用いられている。地域とのつながりに加えて、構成材の特性を生かした古くて新しい形態による建築的構成も明快で、意図が的確に豊かに表現されている。各所に生水が行渡る住まい方、そこでの生活行為が具体的に建築化され、何よりもここでの暮らしの楽しさが伝わってくるところが素晴しい。近所の人たちや子どもたちが集まってきて、自分の家のようにくつろぎ、にぎわう様子が目に浮かんでくるようではないか。自分の意図を大きく分かりやすく表現し、提案内容と手書きが合っているプレゼンテーションも良かったと思う。
審査員全員一致してあなたの提案に感心しました。優勝おめでとう。 (片山)
2010年 第1回 高校生の建築甲子園 準優勝
エントリーNo.13 静岡県立科学技術高等学校 「久能山のたぬき(いえやす)さん ~ぬくといなあ~」
監督/女性 選手/3年男子4名
掴みどころが分からないものの楽しそうな雰囲気と自由な平面構成、緩い傾斜地を生かした断面構成から、はじめにシード校の一つに選定された。読み込むうちに、静岡久能山にあってイチゴを育てる地域にあり、家康に所縁の地であることを生かした提案であることから、準決勝を勝ち抜き決勝へ進んだ。地域の人や観光客が気軽に立ち寄れるようにという意図に基づいた、外部に閉じながら開いた平面構成が魅力的で、“ぬくといなあ”という雰囲気が図面によく表われている。石垣と軽い屋根の断面構成もいい。実現には更なる検討が必要だろうが、冬と夏に対応した開閉できる軽い屋根や蓄熱を考えた石垣のアイデイアも面白い。難点を言えば、能舞台・あずまやなどを含めてアイデイアが寄せ集めに見えることと、石垣に重さや厚みが感じられないことだろうか。石を積むという実感から平面や断面構成が考えられたら、軽い屋根が架かった大地の建築として、より明快で強い案になったのではないかと惜しまれる。決勝戦で一歩譲ることとなったが、よくやったと思う。準優勝おめでとう。 (片山)