2010年 第1回 高校生の建築甲子園 ベスト8 | 公益社団法人 日本建築士会連合会

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2010年 第1回 高校生の建築甲子園 ベスト8

エントリーNo.2 青森県立青森工業高等学校 「望郷」

監督/男性 選手/3年女子4名

描画力が高く印象深い作品の一つでした。作者のふるさとに対する分析には、 りんご生産者のおかれた状況が詳述され、そうしたふるさとに喜びを感じながら住まい、暮らそうとの提案には若い作者のふるさとに寄せる愛情が感じられます。

叔父さんから設計依頼を受けたというストーリーも建築を志す作者の意気込みが込められており、りんご生産農家に生まれた作者の気持ちが、叔父さんの思いに託してよく表現されています。

審査では審査員全員の意見で第二シード校に選ばれましたが、これは、画力の高さからくる作品の持つ強いインパクがその理由であったと思います。

順当に勝ち進みましたが、準決勝での惜敗は、建築のつくりこみが若干弱かった点と、地域の暮らしについての表現が無かった点が課題であったと考えます。例えば、りんご採果場における、共同作業などに敷衍するイメージの表現などがあればと残念に思います。しかし、作品としては、りんご畑から空に突き出す2階部分のユニークさや作者がファンスワース邸の雰囲気と表現している透明感ある建築デザインは、りんごとりんご園に対するオマージュとしてふさわしい表現であると感じられました。 (衛藤)

エントリーNo.3 宮城県古川工業高等学校 繭の町 ~伝統と人情溢れる町の部屋~

監督/男性 選手/3年男子2名

「繭の町」は男子生徒2人と男性教師が取り組みました。インターネットなどによるコミュニケーションの在り方が急速に変貌する現実を直視し、現代社会・地域社会の危うさを自らのこととして捉えて、建築を通して何かしたいという真摯な気持ちが伝わる作品です。提案は地域の人々の暮らしを豊かにする人と人が出合い・集う地域施設です。宮城県北部は養蚕地域であったことから、その伝統に着目して全体のイメージに据え、何とものどかで楽しくなるデザインとなっています。模型にも表現した繭の形状は地域の人々の緩やかなつながりを想像させます。審査委員の間では、アリーナまでも、この繭空間に入れてしまうのは、具現性・リアリティに疑問ありと首を傾げる場面もありましたが、柔らかなデザインの中に、迫力のあるメッセージが伝わり、好印象でベスト8まで勝ち残ることができました。これからも地域の財産を大切にし、建築を通してまちづくりに貢献できる人材に育ってくれるだろうと期待しています。 (定行)

エントリーNo.7
栃木県立宇都宮工業高等学校 大谷石蔵活用計画 石蔵の魅力を活かした「住まい」の提案

監督/男性 選手/3年男子1名・2年男子3名・女子1名

大谷石の石蔵を題材に建築的にきっちとスタディされた提案で、準々決勝まで勝ち残ってきたのもこの姿勢が評価されたものと考えられます。2006年の建築士会全国大会が栃木県で行われ、私たちも栃木での大谷石に寄せる研究や保存などに感激したことを覚えています。大谷石採掘現場の魅力や石の質感もさることながら、本作品は、栃木の人々が木造伝統建築に取り入れ培ってきた大谷石建築の歴史を踏まえながら、増改築のパターン分類による提案であった点が評価されたところです。

作品は栃木県と大谷石についての調査結果と増改築パターンの検討を行い、その上で「住まい」へのリノベーション等4題が提案されています。第1は、「大地の中の住まい」との表題で、提案題材の石蔵の内部改修によるもので、石の質感を活かした提案でした。第2案は「石の趣」と題され、石蔵そのものを鑑賞しながら石蔵との接点の空間の創造がテーマです。その他のプラン例として「家族団らん」と「蔵と住まい」と表題のある石蔵の魅力を活かした2案が提案されています。複数の作者による提案でもあり提案全体としては拡散傾向である点と石蔵の周辺環境への記述が無い点が弱点と感じられましたが、多用な提案が出されたところは若者らしくよいと感じました。 (衛藤)

エントリーNo.12 新潟県立十日町総合高等学校 シンフォニーホーム ~人と自然と交響の家~

監督/男性 選手/3年男子3名・女子10名

この作品が設定した地域は住宅メーカーが入って来ないほどの豪雪地帯で、冬になると人の交流が遮られるような場所だそうです。そこで、「老若男女いつでも遊びにこれる住まい」がコンセプトとなっています。広い玄関、まっすぐな廊下、老夫婦の寝室を1階に広く設けるなどバリアフリーへの配慮が行き届いています。1階中央に調理中でもいつも360度子供達を見守ることができるキッチンを配置しています。キッチンの馬蹄形のカウンターを和洋折衷のリビングが取り囲み、高齢者、車椅子の人、子供達など誰でも集えるような工夫がなされています。また、庭には、冬は融雪に、また夏はプールとなる池を配置して、豪雪地域という地域性に十分配慮した提案となっています。外観もこの地域特有の住宅デザインを踏襲しているようで、地域課題の読み取りとそれへの正確な対応、夢のある平面計画など、十分に練られた作品だと思います。レイアウトも全体的に良くまとまっており、細部まで配慮が行き届いていましたが、逆に少々インパクトに欠ける部分もあり、この作品以上の表現力を持った作品との対戦により、残念ながら準々決勝までとなりました。 (豊永)

エントリーNo.15 三重県立四日市工業高等学校 地域にとけこむ「教室併用住宅」の設計

監督/男性 選手/3年女子2名

1970年大阪万博のオーストラリア館が四日市に移築されていることに着目し、地域性を探る拠りどころとした作品です。そこからオーストラリアと日本、とりわけ四日市との比較やオーストラリアの住宅の特性の研究へ、思考を展開しています。審査ではそのしっかりとした調査、研究は高く評価されました。この調査の結果オーストラリアは四日市と似た気温や降水量であることが明らかになり、四日市の地域性にオーストラリアの住宅の利点を取り入れた教室付き住宅の提案となっています。計画では先ず、住宅の「再利用」を容易にするため、老朽化により痛みやすい水周りを居住棟とは別棟にし、屋根も別に掛け、取替え可能な長寿住宅としています。また、オーストラリアの住宅の特徴である二つのリビングを設け、一つは教室として利用しています。さらに、これは国土の広い国ならではかも知れませんが、平屋が多いことに着目し、1.5階の地下収納つきのほぼ平屋建てを提案しています。着眼点や全体としての論理は優れていましたが、四日市の地域性が本当にオーストラリアを参考にできるのか、との疑問が最後まで残りました。また、全体レイアウト、表現力等でさらに優れた作品があり、この作品は残念ながら準々決勝までとなりました。(豊永)

エントリーNo.21
兵庫県立東播工業高等学校 ひと(人)つ屋根の下で三世代が住まう ~平成版龍野寺子屋物語~

監督/男性 選手/3年男子3名

西播磨の小京都と呼ばれる龍野は、素麺・醤油・味噌などでも有名な地域です。しかし、ここでも、衰退する商店街の現状がありますが、その課題に真正面から取り組んだ力強い作品と高く評価できます。その解決の方法として、3世代が生業を通して暮らしの再生に取り組もうと、商店街の活性化の一環として複合施設を提案しています。また、地域の大人も巻き込みながら、子どもたちの居場所を提供しています。

地域にある商店や子どもの施設などを調査し、ここに必要な機能を盛り込み、また、街並みに馴染むように建物のファサードを考え、模型も精緻に創っていることなど、しっかりと堅実に取り組んだ成果が審査員の目にもとまり勝ち進んできました。

一つ屋根の下で3世代が住まうというテーマから、やはり住宅部分の提案も欲しかったと思います。生業を通して地域の活性化を真摯に想う高校生の提案に心打たれました。 (定行)

2010年 第1回 高校生の建築甲子園 審査委員長特別賞

エントリーNo.9 埼玉県立熊谷工業高等学校 小さくて大きなぬくもりの家々

監督/男性 選手/1年男子1名
カラフルで分かり易いCAD表現が多い作品の中で、手書きのモノクロで分かりにくく、巧いのか下手なのか分からない不思議な雰囲気に惹かれた。提案は仲良しの3家族が協力し合って生活する住宅群の計画。住まいと小さな食事処や銭湯、工芸品店が小川を真中に配され、小麦の製粉用水車を乗せた舟車が浮かんでいる。土間を回した住居棟や群の構成に妙に懐かしさを感じたが、惜しむらくはこれだけの環境をイメージしながら、見る側が努力しないと分かりにくいこと。少なくとも断面図や立面図を水平に置くと、全体の空間的な魅力が鮮明になったのではないだろうか。全てを一人でまとめるほど建築が好きのようだが、自分の世界を大事にしつつ、少し他と交わり目を広げ鍛えられると良いのではないかと思う。2回戦敗退ながら、最近の高層大規模化する建築や住宅群に対して、小さなスケールや生活感に着目しこだわる姿勢に共感し、審査委員長特別賞とした。期待しているよ。 (片山)