2013年 第4回 高校生の建築甲子園 ベスト8 | 公益社団法人 日本建築士会連合会

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2013年 第4回 高校生の建築甲子園 ベスト8

エントリーNo.2 (審査委員長特別賞):
青森県立青森工業高等学校「薪ストーブ街の提案 これからのエネルギーは電力だけに頼れない」

選手/3年女子3名

難しい試験問題をクリアすることに似ていないだろうか。最近住宅を作る作業は、構造的な安全性は勿論、高気密高断熱、長期優良住宅や住宅性能評価など、条件をクリアするための作業に忙殺される。一つ一つは確かに大切なことに違いないが、肝心のどういう住宅に住まうか、暮らしに思いを馳せることが後回しだ。そういう現代にあって、間伐材利用から考えられた単純明快な“住まいに暖かい薪ストーブが欲しい”という提案、そして薪ストーブは4回暖かいぞという主張に、思わず膝をたたいた。オール電化住宅の利便性や経済的なメリットから疑いもなく採用されている現状に、強い反対はないが物足りないという気持ちには大いに同感させられた。

薪ストーブを燃すと言えば、環境に対してよいのかというエコの視点からの指摘があるかも知れない。が、むしろこの提案に込められた、ストーブを燃やすことによって、心が温まる会話を家族に取り戻す“4回目の暖かさ”に軍配を上げたい。惜しむらくは、気候的な寒さに対する提案に終わってしまったことだ。住宅の図面と説明はメリハリが効いて好感はもてるが、コピペの繰り返しではネ。もう少し地縁的な地域の姿との関連や生活の情景が具体化されていれば、十分決勝戦へ進めたのではないかと思われる。

エントリーNo.9
栃木県立真岡工業高等学校「木綿ふれあい工房 ふれあいが生む伝統と文化の伝承」

選手/2年男子3名、1年男子3名

栃木県や真岡市特有の大谷石のある風景、伝統文化である真岡木綿の継承を「当たり前の感覚」で養うという、もともとそこにあった魅力をいまの暮らしに如何に日常的に落しこんでいくかに解決を見出しており、募集テーマである“地域のくらし” を最も素直に応えた作品であったのではないかと感じる。

敷地内に配した場面の設定とそれぞれの距離感は、地元に暮らす人々を行き来させながら、地域の文化を見つめ直すきっかけを生み、さらにそれが地域の魅力的な風景をつくることを示唆する計画として成り立たせている。また、表現が明快で伝えたいことがダイレクトに示されており、審査の初期段階でも多くの票を集め、第三シードとして位置づけられた。

結果論的に言ってしまえば、優勝作品と初戦での対戦となったことが非常に残念でならない。“地域のくらし”という広義のテーマであるがゆえ、優勝作品の社会性や地域サイクルをつくりだす影響力との差が敗北の要因であったと言えよう。どうしてもトーナメント戦では、対戦相手との甲乙の比較となっていく。つまり、初期段階で読み取れないことにも触れながら(場合によっては可能性の深読みをしながら)審査員全員で協議しながらの対戦となる。しかし、この作品が結果以上の実力を持っていたということをここに記録させていただきたい。(関)

エントリーNo.10 群馬県立前橋工業高等学校「工の継承・赤城型民家の伝承」

選手/2年男子1名、女子2名

昭和3年、今和次郎が、赤城山南麓に多く見られる茅葺き屋根の前面中央を切り上げた民家を見て、これは「赤城型」といったのが始まりといわれている「赤城型民家」を切り口にした作品。

この地方ならではの「民家」をテーマにしたところなどは、地域性がとてもよく表現されています。また、池からの庭光を得るアイディアも、やさしい自然との付き合い方として、心なごむものがあります。

しかし、残念ながら、「何が最も言いたかったのか」がわかりにくい作品といえます。

いくつか、あげておきます。まず、「省エネ住宅・健康住宅」である「赤城型民家」にわざわざ付加した装置としての太陽パネルの役割がもう一つ、その意図が伝わらなかった。地球規模での「省エネ」としては理解できるのですが、わざわざ屋根の上にまで乗せてその意匠性を打ち消すまでもなかったのではないでしょうか?安直な「省エネのシンボル」のような使用方法は残念だった。

次に、考えた様々な平面の説明も欲しかった。例えば、川を取り込んでいる平面がありますが、このことによって何が、どうなのかの説明があれば良かった。

そして、建築にとって重要な、「空間のスケール」感をもう少し考えて欲しかった。共同庭で開かれるお茶会や食事会はこのスペースで十分な広さがあるのだろうか?など。

何はともかく、「ベスト8」おめでとうございます。(森崎)

エントリーNo.19 名古屋市立工芸高等学校「有徳通り」

選手/2年女子1名

愛知県名古屋市緑区の有松・鳴海絞りは、江戸時代以降から生産されている国の伝統工芸品の一つである。本作品は、活性化している地域と駅を結ぶことで活性化の範囲を広げること、まちの特産品である有松絞を広めることをコンセプトとしている。この有松絞に着眼しシンボル的に商店街に取り上げるのは、まちの誇る伝統工芸品であることを住民で意識するためのきっかけとして有効である。さらに活性化している地域を取り上げ、その良さを広げる工夫は、まちづくりとして評価できる。また、有徳通りの様々な提案は興味深く、扇川側の立面図はまちなみとして存在しそうな雰囲気を出す努力がうかがえる。しかし、一つの提案としているアーケードの断面図は、アーケード側の道路は良いが、住宅として考えた場合の開口部の目の前に高速道路が見えるようなロケーションの設定となっており、この形が住民にとって最良の計画か疑問が浮かぶ。全体的には、まちづくりと伝統を意識した提案といえる。(永井)

エントリーNo.28 明石工業高等専門学校「酒蔵のまちの教会」

選手/3年女子1名

神戸市東灘区魚崎地区は、江戸時代からの酒蔵のまちである。本作品は、歴史はあるが衰退している酒蔵と教会のように一見交わることのない分類をまちの歴史的な背景を加味し、伝統と教会を融合させるような計画は、地域的な特徴と教会のよく考えられている。また、景観規制を利用し、勾配屋根を震災時の貯水タンクに水を貯め、非常用トイレにも使えるようにしている防災対策は評価できる。一般の人をも誘導するためのファサードの在り方や、地域への流れに繋がるための敷地の利用方法についての提案が今一つ明確でないのが残念である。建物の全体は模型なども通じてよくわかるが、コミュニティ活動が展開できるまちづくりとしての提案についてもう一歩のアイデアと工夫が欲しいところである。この提案を通じて、まち全体を俯瞰した計画を構築できるように成長してほしい。(永井)

エントリーNo.38 愛媛県立松山工業高等学校「みかんの里」

選手/3年男子1名

県の基幹産業であるみかんの生産に着目したアイデアあふれる提案である。計画は、スポーツセンターの跡地である平らな部分を建築物の敷地に、急峻な地形をみかん畑に活用することによって、住まいからは眺望が楽しめ、畑は潮風を受けることが可能となっている。石垣による段々畑とすることは、一見、生産者にとって過酷な労働を強いることになるように見えるが、良質なみかんを生産するために必要な環境づくりであることをよく調査している。みかんの段々畑が、地域に根差した愛媛県らしい生活景の形成であることを教えられる。住まいは、みかんを栽培する人が暮らす家と、農園全体を管理する人が暮らす家が提案されている。外観や平面計画から、住まい手の住みやすさだけでなく、住まい自体が観光資源になるような試みが伺える。地域のくらしは、人との繋がりだけでなく、経済的な繋がりも重要であるが、みかんの里は、運営についてもよく考えられている。里そのものを観光資源にしている点や、オーナー制度の提案、みかんの皮を利用した新エネルギー提案にまで及んでいる。作成された模型も秀逸であり、プレゼンテーション力も評価できる。(松田)