2016年 第7回 高校生の建築甲子園 ベスト8 審査委員長特別賞 | 公益社団法人 日本建築士会連合会

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2016年 第7回 高校生の建築甲子園 ベスト8 審査委員長特別賞

エントリーNo.27.2 大阪市立都島工業高等学校「国際力と人間力と空き家力」

選手/男子2名、女子0名

自分たちで直す。古い町家や民家を、自分の手で直して住みたいというセルフビュルドの夢を描いている人は多い筈だ。が、ここに自分たちで直せる生徒たちが登場した。大阪都島工業高等学校に学ぶ生徒たちだ。木構造の加工、左官、造作、鉄筋加工や溶接などの技術を鍛えている教育機関に学んでいる。その集団の教育課程カリキュラムに現実的な目的を持たせ、その知見と技術力を生かして取組む。その対象に“空家を生かす”が据えられた。

発想の転換によって、これまでどちらかというとマイナス要素と見えていた空家が、リフォームする対象になることでプラス要素に変わった。教育、観光都市、災害時など様々な分野の備えとして空家が機能する。これは強い。

多分同様な取組みを試行している教育機関が、他にもあるかも知れない。が、この提案を評価することが妨げにはならないだろう。私なりに更に類推を進めれば、これまで放置されてきた旧家が教材になり、町並みの修復が実技習得の場に変わる。この発想を単発的に終わらせず、例えば何処かの町に絞って長期に生かせると面白そうだ。1年1年どんどん修復が進み、町の魅力が甦ってくる。想像しただけで胸が躍る。そしてこの発想を“仕組み”にまで発展させられれば、さらに確実なものになりそうだ。どこかの町との幸福な出会いを祈りつつ、審査委員長特別賞を送る。その代わり頑張ると約束して貰いたい。

2016年 第7回 高校生の建築甲子園 ベスト8

エントリーNo.10 群馬県立桐生工業高等学校「長屋の湯 三つ子の宿」

選手/男子2名、女子0名

群馬県桐生市桐生新町は、製織町(織物業で栄えた)で平成24年7月に重伝建地区に指定されているが、この地区内、長屋のリノベーションである。 この地区は、土地の区割りがよく残っている。中央を貫く大通り(約9m)から短冊状の間口の狭い奥に長い敷地割が特長である。しかし、本作品は、この特長に手を入れ過ぎている。路地的通路にさらに新たに、細街路を付加している。地区の空間特性を混乱させることになりはしないだろうか?

一の湯を活かすために、長屋の風呂を除去したと記載している。除去したことによって、不便な日常生活を強いることに成りはしないか?

しかしながら、「建築という空間を異化させた」ことと「プレゼン(特に、スケッチ)の巧みさ」が功を奏し、その建築空間を異化出来なかった埼玉県立春日部工業高等学校の新・越谷宿─新しい宿場町の在り方の提案─などを退け、結果、ベスト8まで残った。逆に、なかった風呂をコミュニティのしかけとして活用したNo.27.2大阪市立都島工業高等学校の国際力と人間力と空き家力(ベスト4)に敗退した。テーマの理解度や実現への具体性、表現力(プレゼン)はさほど差異がなかったが、空き家が多いほど「都市のふところの深さ」と言い切った(空き家力とよんでいる)独創性は、本作品より優れていた。

エントリーNo.17 新潟県立新潟工業高等学校「甦る」

選手/男子3名、女子0名

美味しいお米で有名な新潟県の新発田市紫雲寺地区に所在する約150年前に建てられた典型的な農家住宅の再生計画である。和風の造作をそのまま活かし、喫茶店と茶寮として甦らせた。建物だけでなく、庭の良さも取り入れ、自然の風と光をふんだんに利用している点がとてもよいと思う。表題にある主庭のスケッチが庭のイメージを膨らませることができた。改修計画としては、和の要素である畳の部分を残しつつ、畳を木板に変更し大きな空間を作ることで、喫茶コーナーを確保し、建具をはじめとする伝統的な造作を上手に利用している。和の持つ心を次世代に引き継がれていく可能性が伺える。部屋の利用形態としては、喫茶店、茶寮だけでなく、コミュニティースペース、土蔵内部に造られたホール、書道教室、ギャラリーなど、様々な提案を行なっている。このような近隣の集える場所は、地域の活性化にもつながる。増築提案の宿泊棟に、もうひと工夫あるとよりよい提案になったと思う。伝統的な建物が今回の提案のような利用の仕方で甦ることで歴史的建造物のこれからの保存活動につながることと思われる。この考え方を大事にしていっていただきたい。(小野)

エントリーNo.21 三重県立伊勢工業高等学校「小さい町屋」~生成り文化を伝承するゲスト住宅~

選手/男子2名、女子0名

優勝作品に敗れたが、ベスト4にまで残った。

下屋を挿入添加し、中庭を設け、壁を設けることによって、落ち着いた路地を演出し、戸外の空間をより豊かなものへと変貌させている。民家のリノベーションによるゲスト住宅ということで、2棟分離によるタイニーハウス(小さな家という意味)で充分だ。より安全な住空間のために最低限の鉄骨耐震補強は、ゲストへの思いやりとみる。

勝ち抜いて来た最大のポイントは、テーマに対する優しさからかもしれない。

しかし、リノベーションを大きく超えた「大改造」になってしまった。1棟では、通用するが多くの近接の「空き家活用」の観点からはいかがだろうか?テーマ理解度と具体性の点では、次に示す「優勝作品」にやや劣っていたようである。

優勝作品No22富山県立富山工業高等学校 時をつなぐ、モノをつなぐ、人をつなぐ ~団地からはじまる地域姿勢計画~は、テーマの理解度である「地域のくらし」や実現への具体性(今すぐにでも実現しそう)、かつ、巧みでわかりやすい表現力(スケッチや模型)があった。また、既存長屋に大屋根をかけるというのは、言われれば成るほどだが、その独創性は評価できるし、為に本作品は、敗れた。

ともかく、「ベスト4」おめでとうございます。

エントリーNo.30 和歌山県立和歌山工業高等学校「縁側から広がる学童保育所」

選手/男子6名、女子2名

万葉集にも謳われた和歌浦湾に面する和歌の浦、対象敷地として選定された妹背山の風景 また、対象とされた芦辺屋妹背別荘が持つ縁側の特徴、文化人との関係など歴史的な背景なども調査され、山と海が望める情景は説明文の中からも想像できる文面であり大変興味の湧く内容であった。一番の特徴ともいえる縁側を現代に当てはめ、風景を楽しむとともに学童保育を行うというアイデアも次世代を担う子供たち、また地域の方とも「地域の良さ」を再発見できるような利用案であると思える。作り込まれた模型、利用形態をイラストで表現された説明もわかりやすい。全体の構成もわかりやすく表現されていると感じた。

がしかし、全体の計画案を拝見すると、これほどまでに歴史のある建物内部はほぼ改修され、真新しい空間として計画されている。前段にある歴史的背景の中には、その風景を楽しむために縁側があるのでなく、その縁側に隣接する居室も関係し、その一体感から風情を楽しめる建物として評価され文化人も訪れたのだと想像すると、従来の間取り、畳の存在などももう少し活かせるとより良かったと考える。場所のみを活かす方法から、そこに存在する建物としての空間も活かす方法を今後見出してほしい。(安田)

エントリーNo.33.2 岡山県立津山工業高等学校「建昔物語」~人と建物の再生記~

選手/男子2名、女子1名

国選定重要伝統的建造物群保存地区としての街並みを活かしつつ、現在問題となる空き家増加と待機児童解消に向けた提案。保育施設の機能を町の一部に分散させ、地域との交流を図る案は斬新に思える。説明も個々の建物に対し具体的にあり、模型とイラスト、説明文章の構成もわかりやすい。内容を読んでいると、町の中を子供たちが元気に走り回る様子が伝わってくるような、楽しめる提案だと思う。気になる部分として、高齢化に向けた説明がある中で、高齢者と今回の計画についての繋がりが少し弱いように感じた。バスの共同利用説明はあるが、他の接点がもう少し出せるとその先にある「活性化」に繋がると思う。カフェの存在も良いと思うが、待機児童解消のための保育機能を持つ町ぐるみの対応の中で、どのような人たちがカフェを利用し、園庭にある砂場を利用する子供たちとの接点がもう少しあると、初めてその場所にあるカフェの意義が強調され、一体とした町全体での空き家対策に繋がると感じる。実際に行うとすれば、防犯面(交通も含め)についてより検討を行わないといけないが、そのような実際のシミュレーションを深め、さらに個々の関連性が生み出されれば良いものとなったであろう。(安田)

2016年 第7回 高校生の建築甲子園 ベスト8 教育・事業委員長特別賞

エントリーNo.28.1 兵庫県立兵庫工業高等学校「"空き商店街そらの"」

選手/男子2名、女子0名

出展された作品の中でもっとも色彩豊かな作品である。昼と夜の商店街の様子を色鮮やかに表現している。活気の無い商店街を魅力的なアーケードで活性化しようとする提案である。アーケード街、それはかつて人が集まる場所の代名詞でもあった。様々な食材や商品に溢れ活気に満ちていた。現在は人口密度の高い場所や、観光地では賑わいを保ち続けている商店街もあるが、経営者の高齢化や大型店舗の進出などで消費者の足が遠のき、空き店舗が増え活気を失った店舗が残されているのが現状である。今回アーケードの屋根に選択された素材は布である。一見風雨には弱そうだが、風にたなびくさまは他の素材では演出できない。最近この笠松商店街は若い職人や芸術家の卵たちに人気の下町のようだ。太陽のまぶしい夏には訪れた人々に心地よい日陰を提供するであろう。満点の星空が屋根の布のスクリーンに映し出される時、商店街は再び賑わいを取り戻すのではないだろうか。そんな思いにさせてくれる楽しい提案である。