2011年 第2回 高校生の建築甲子園 ベスト8
エントリーNo.2 青森県青森工業高等学校 「若きねぶた師の家」
監督/男性 選手/3年男子3名
抑えた色調の中に色鮮やかに輝くねぶたの写真や、平面図上をはじめいたるところに点在する人々のフォルムなど、夜に輝くおまつり「ねぶた」の活気が作品全体から伝わって来る。学校の先生でもある若きねぶた師。たぶん実在の先生であろう。その先生をテーマとしたことで、ともすれば、少々突飛な印象も受けがちなこの計画にリアリティが生まれている。先生を応援したいという皆さんの温かい気持ちがあふれている。少し寂しくなりつつある新町商店街の活性化と、「ねぶた」作りの高度な技術の伝承という、二つの課題の解決として「ねぶた小屋に住んじゃえ」は、非常に説得力のある提案となり、「ねぶた部」の活動様子もかいま見え全体として統一感のある作品となっている。また、平面図、立面図、断面図など図面もしっかりと書き込まれ、ハレの日とケの日を分けるためか、平面図の下地にかすかな青を配しているところや、文章と模型をはじめとした写真、図面の配置など、表現技術も優れている。ただ、屋上はねぶた見物の場所としては最適であろうが、移動桟敷の場所は奥まっているために左右が遮られて正面だけしか見えないのではと少し気になった。 (豊永)
エントリーNo.10 山梨県立甲府工業高等学校 「Terroir~葡萄棚の下の住空間」
監督/男性 選手/3年男子3名・女子3名
全体を葡萄色でまとめ、タイトルに「Terroir」と、ワインの本場フランスの香りがする、とてもおしゃれな作品である。上段部分の葡萄色のタイトルバックを地面と見立てて断面図を埋め込み、周囲を模型写真で囲み、真ん中に文章を配置したレイアウトは、洗練された表現だと感じた。また、模型もぶどう棚の下の住宅の雰囲気、魅力を良く伝えている。
「僕」を語り手とした建物の紹介も自然でわかりやすく、親しみが持てる。また、良く調べられた、勝沼ワインの歴史の文章とは字体も変えてあることなど、細かい配慮も見られる作品である。
最初、何で家が埋め込まれ「サンクガーデン」で採光を取らねばならないのか、ぶどう畑は傾斜地なのか、などと葡萄畑に詳しくないため少しイメージが湧かなかったが、しばらく考えて、そうか、ぶどうの枝は地上1.5mぐらいの高さに這わせるのだな。ぶどう畑の“横”ではなく“下”であることが重要なのだと思い当った。ぶどう畑と一体化し、温かい雰囲気で、ワイセラーもあり、「無尽」で人々が集いたくなる住宅としてよく工夫されている。 (豊永)
エントリーNo.15
三重県立伊勢工業高等学校 「伊勢河崎の町屋美術館」
監督/男性 選手/3年男子1名・女子1名、1年男子1名
地域を、念入りに分析し、その特徴を分かりやすく提示し、地域の魅力と課題を整理しているところを高く評価する。伝統的な妻側玄関の町屋の街並み、古くとも構造的には問題ないことを明らかにしながら、開口部の少なさを指摘するなど、分析的・研究的な点も素晴らしい。また、新築住宅でも、街並みを揃えるようなファサードを取り入れるなどの配慮がみられるといった、街並みを、地域で維持しようとする意志を読み解いているところも、感心する。地域を活かした町屋美術館は、この町に活気を与えるだろうと推測でき、そのための機能的で、美しいデザインが求められる。また、地域を美術館にしていくには、駐車スペースも必要になり、現在の利用に対応するための方策を練った結果が、ちょうど歯が抜けたような敷地とその背後の敷地であったと思われる。円や三角など、幾何学的な単純なモチーフを使いたいということだが、通り抜けの裏スペースの計画が、もう少し豊かな空間を創出できたならば、さらに上位に食い込めたものと思われる。
コンセプトの的確な明示、地域がイメージできるような街並み模型、さらに、図面やパースなど、豊かな表現能力は秀逸で、今後に期待したい。 (定行)
エントリーNo.20 京都市立伏見工業高等学校 「十字路のある家」
監督/男性 選手/3年女子1名
京都のまちのあり方への提案として、興味深い提案であると評価した。京都独特の碁盤目の整然とした町並みに着目し、密集した町屋の佇まいに路地の効果を一層活かすようにと取り組んだ作品である。住まいの空間を十字に構成することで、各室の居住性を高めると共に、路地の奥行きを感じさせる効果を狙ったアイデアは高く評価したい。また、暮らしから四季の装いを表現したり、集合の多様なパターンを考えたりと、設計計画の楽しさを感じさせてくれる。
表現については、もう少し丁寧さが必要であったと思われ、残念である。接道の状況など緻密に丁寧に描き出すことによって、見えなかった課題に気づくことができたと思う。まちの集合の仕方・手順についても、模型を作製して取り組んでくれるとリアリティが生まれたと思うと、魅力的なテーマだけにとても惜しい。 (定行)
エントリーNo.31 佐賀県立佐賀工業高等学校 「街の駅 えびす屋」
監督/男性 選手/3年女子2名
佐賀の街の宝である恵比寿さんを押し出した力作である。「二世帯の家族とカフェを営む夫婦という、不思議な人たちがすむこの一軒」という舞台設定は楽しく、また地域の暮らしの理想像として読み取れる。ここでは、恵比寿さんガイドのおじいさん、菜園が趣味のお母さんの手料理が、カフェの運営と豊かに協働されている。また、地域とのつながりは街に開いたカフェが受け持っている。幸せな関係を創造する装置としての暮らしの場が生み出されている。スマホによる、恵比寿さんの情報受発信が加わり、一つの物語として楽しく読ませてもらえた。佐賀の街は、全国大会でお世話に成り、恵比寿さんの数や、それを残している佐賀の人々の心意気に驚いた。
本提案は、人通りさえ少なくなっている佐賀市の状況を、街の宝である恵比寿さんが力強く元気づけ、その中に、半ば共同生活にも似たコミュニティの姿を描くもので、心温まるストーリーが表現されている。ただ残念ながら、これらの家族群の心が、他の家族や家族群に広がるストーリーは用意されていない。また、恵比寿さんの素晴らしい表現が、小さな掲示はあるものの、バーチャルだけで無く、リアルな取り込まれ方がされていれば、完成度の高い提案となったと思う。楽しめる作品であった。 (衛藤)
エントリーNo.35 鹿児島県立隼人工業高等学校 「むかひもいまも~昔も今も~」
監督/男性 選手/3年女子2名
日本の各地で森と町の関係を見直し、木材の利用とその結果健全に生育する森林との関係性により低炭素社会を実現しようとする取り組みがなされている。豊かな森林を持つ鹿児島から霧島の木々を「天然の空調装置」として活用し、四季を通じて暮らしやすい住環境を目指した本提案は見応えのあるものであった。さらに、少子高齢化の中での地域活性化という重いテーマに対し、芋焼酎醸造を生業としてきた一つの家族ができることを、具現化しているところは大いに評価できる。このような、住まいと働き場が一体になった、しかも見学に訪れる人々に魅力ある計画が、今後、多数完成し、1つの街区を創り上げていく姿が目前に浮き上がってくるようだ。地域活性化の夢の提案と感じた。気になったところは、敷地のオリエンテーションや家族の、特に祖父や子ども達の日常生活が読み取れるような書き込みがもう少し欲しいと感じた。また、工場の屋上の芋畑はその広さから十分な生産性があるとは思えないが、特に手を掛けた芋をつくるなどの具体性と祖父母も参加できるなどの建築的工夫も欲しかったと思う。それにしても、藤の間から水車のある空間は、地下のそそぎの道へ光を落とす工夫も含め、本提案の大きな魅力の一つと感じた。 (衛藤)
2011年 第2回 高校生の建築甲子園 審査委員長特別賞
エントリーNo.32
長崎県立佐世保工業高等学校 「丘のまちに住む〜住み続けられる斜面住宅地を目指して〜」
監督/男性 選手/3年男子2名
この計画は、佐世保市山祇町一帯に広がる斜面住宅地の上り下りを楽にして住み続けられる町にしようという試みである。まちに高齢者が増えているという現実を踏まえながら、まちという広がりを対象にした着想、スロープラインと結節点に小さな拠点施設群を配置するという計画にはとても惹かれた。同じような住環境が他にもありそうで、ここでの着想や解決に興味をもつ人たちも多いのではいかと思われる。けれども計画案を見ると、高低差をつなぐ解決手段が結局斜行エレベーター,移動ボックスとリフトという機械装置だけになり、歩行路や拠点施設の建築に斜面地らしい解き方が見られなかった。着想がいいだけに相槌を打てるようなアイディアがもう一つ欲しい。そして斜面地というならば、断面が重要。全体断面や道路勾配の具体的な分析、高低差を解決する建築や構造などの計画と表現があれば、説得力のある魅力的な計画になったのではないかと惜しまれる。
とはいえ町という広がりへの着想は素晴らしい。この試みの更なる一歩への応援をしたく審査委員長特別賞とした。これからを期待しています。(片山)